コロナ禍での精神的ストレスは周囲に打ち明けよう
長引くコロナ禍の影響によって精神面や経済面で追いつめられ、強いストレスを抱える人が増えています。
在宅勤務や外出制限等によって人との交流の機会が減り、孤立感や不安感が生まれやすいため、思いつめて自らの命を危険にさらす可能性も決して少なくありません。
なぜ、そこまで思いつめてしまうケースが増えているのでしょうか。
精神科医の松本俊彦さんは、「ひとりで思いつめてしまう人は、『助けを求める力』が低下している傾向があります」と話します。
「過去の経験から他人をなかなか信用できない、提案や助言をされてもそれを実行できる自信がない、家族等の身近な人との関係がよくないといった状況を抱える人は、周囲に助けを求めることが難しくなっています。
加えて、現在のコロナ禍のように人と接触する機会が極端に減ると、相談できるチャンスも少なくなり、さらに周囲に助けを求めにくくなってしまうのです。」(松本さん)
しかし、周囲に助けを求めることなくネガティブな感情をひとりでため込んでしまうと、いつか爆発してしまい、自分自身を傷つける衝動も起こりうるといいます。
心の苦しみをなかなか他人に打ち明けられない場合は、どうすればいいのでしょうか。
「いきなり“悩みを相談する”ことを考えるのではなく、まずは軽く“愚痴をこぼす”という気持ちで、話を聞いてもらうといいでしょう。
愚痴はいわない方がいいと思われがちですが、聞き手にとって、他人の楽しい話や自慢話よりも愚痴のほうが共感しやすいともいえます。
愚痴もひとつの有効なコミュニケーションの手段と考えてみてください。」(松本さん)
相談する場合、ひとりの相手にじっくり深く話を聞いてもらうという印象があると思いますが、愚痴はもう少し気軽にいろんな人に少しずつ話を聞いてもらうものだと考えてみましょう。
まずは「実はちょっと困っていて・・」と投げかけてみましょう。すると相手から「どうしたの?」と切り返されて、自然と話が進むはずです。
もし、相手からダメ出しされたり、自分の考えを押しつけられたり、面白半分に根掘り葉掘り質問されたりした場合は、早々に話を切り上げて別の人に話すのがいいと、松本さんは話します。
「『その考え方は違うと思う』『私なんてもっと大変なのよ』等と、自分の価値観や体験談を押しつけてくる人は、愚痴をこぼす相手としてふさわしくありません。
『そうなんだ、ありがとう』と話を打ち切り、別の人に話しましょう。愚痴をこぼす相手は、ひとりに限らなくてもいいのです。
話をわかってくれる人は3人に1人ぐらいと考えて、この人は違うな、と感じたら話し相手をどんどん変えていきましょう。」(松本さん)
なお、松本さんが考える“いい話し相手”とは、次のような人だといいます。
1. あれこれ口をはさまずに、じっくりと話を聞いてくれる
2. 質問攻めにせず、話したくないことは話さなくてもいいという態度を保ってくれる
3.気軽に「自分にまかせて!」といわない
ひとりの人にたくさん愚痴をこぼすよりも、いろんな人に少しずつ愚痴をこぼすようにすると、相手の負担も少なくなります。
愚痴をこぼすことで少しずつ心の荷物を軽くすることができれば、孤独感や不安感をやわらげる助けになるでしょう。
監修者 松本俊彦さん
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長および薬物依存症治療センターセンター長。
日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神科救急学会理事、日本社会精神医学会理事、日本青年期精神療法学会理事等を兼務。
『自傷行為の理解と援助――「故意に自分の健康を害する」若者 たち』(日本評論社『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)、『もしも「死にたい」と言われたら――自殺 リスクの評価と対応』(中外医学社)、『自傷・自殺のことがわかる本 自分を傷つけない生き方のレッスン』 (講談社)等著書多数。
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